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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和39年(ネ)14号 判決 1969年2月28日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一、控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、別紙目録記載の不動産についてなされた同目録記載の根抵当権設定登記および根抵当権移転登記の各抹消登記手続きをせよ。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

二、被控訴人代理は、主文第一項同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張

一、控訴人の請求原因と被控訴人の主張に対する答弁

(一)  別紙目録記載の不動産(以下本件不動産という。)は、控訴人の所有であるが、右不動産には、別紙目録記載のとおり、訴外合名会社田辺商店を根抵当権者とする根抵当権設定登記(以下本件根抵当権設定登記という。)と被控訴人を権利者とするその移転付記登記(以下本件移転付記登記という。)がなされている。

(二)  しかしながら、控訴人は、右訴外会社と、右の如き、金円借用、手形割引契約を結んだこともなければ、根抵当権設定契約を締結したこともなく、したがつて、本件根抵当権設定登記をしたこともない。また金円借用、手形割引、根抵当権設定契約の如き信用を基礎とし、継続的取引を目的とする契約は、相手方当事者の同意なくして、その契約上の地位を第三者に譲渡することはできないものであるから、被控訴人は、本件根抵当権につき何らの権利も取得しない。

(三)  よつて、本件各登記は、いずれにしても無効であるから、その抹消登記手続を求める。

(四)  被控訴人主張の(二)の事実中、訴外山田正一が、昭和三一年頃から訴外会社より文房具類を仕入れていたこと、および被控訴人主張の債権譲渡の通知があつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(五)  訴外山田正一は、昭和三一年頃から同三二年五月五日まで訴外会社から文房具類を仕入れていたが、同年同月一四日、同日現在の残存買掛債務金一〇数万円に対し、当時右訴外人の売先小売店五〇名に対する売掛債権合計金四〇万円相当を右訴外会社に譲渡し、これによつて右残存買掛債務全額は決済ずみである。

(六)  仮に被控訴人主張の売掛債権が残存していたとしても、右債権は、履行期後の昭和三三年一月一日民法第一七三条所定の二年の短期時効によつて消滅している。

(七)  被控訴人主張の時効中断の再抗弁事実は否認する。

二、被控訴人の答弁と主張

(一)  控訴人の請求原因(一)の事実は認めるが、同(二)の事実は否認する。

(二)  本件各登記は、左記原因と経過によつて登記されたものであつて、いずれも有効である。

1 訴外合名会社田辺商店は、昭和三一年頃から訴外山田正一、控訴人の両名または右訴外人に、文房具類を販売してきたが、右代金の支払状況は極めて悪く、昭和三二年四月二六日現在で、その売掛残高が、金五四万六、〇二九円におよんだので、同年五月中旬、右訴外会社と右正一、控訴人の三者で話会の結果、右売掛残債権を被担保債権として、控訴人所有の本件不動産に、本件根抵当権を設定する契約が成立し、これに基ずいて、本件根抵当権設定登記がなされたものである。

2 そして、右訴外会社は、同会社の被控訴人に対する金三五万円の借用金債務の弁済に代えて、昭和三六年八月一一日本件根抵当権の前記被担保債権の右当日における残存債権金五〇万円を被控訴人に譲渡し、その旨控訴人に通知するとともに、被控訴人は、本件根抵当権の移転付記登記を経由したものである。

(三)  控訴人主張の(五)の事実は、訴外山田正一が、昭和三一年頃から、訴外会社と文房具類の仕入取引をしていたことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。同(六)の時効の抗弁も争う。

(四)  控訴人は、昭和三四年四、五月頃までに本件買掛債務中金二万七、四〇〇円を内入弁済し、また右以後も昭和三七年二、三月頃までに、数次にわたつて、本件買掛金債務を承認した事実があるから、本件被担保債権は、いまだ時効消滅していない。

第三  当事者の証拠関係(省略)

理由

一、控訴人所有の本件不動産に、控訴人主張どおりの根抵当権設定登記とその移転付記登記がなされていることは、当事者間に争いがない。

二、そこで、右各登記の効力について判断するに、

(一)  成立に争いのない甲第一、第二号証、第五、第六号証、乙第一、第三、第四号証、原審証人田辺順次の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第三号証の一、二、第四号証、当審証人田辺順次(第一、二回)の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二、第五号証ならびに原、当審証人田辺順次(当審は第一ないし第三回、但し後記措信しない部分を除く。)山田正一(但し後記措信しない部分を除く。)の各証言を総合すれば、訴外合名会社田辺商店は、昭和三〇年頃から控訴人とその長男の訴外山田正一の両名を共同の取引相手として、文房具類の卸販売をしていたが、その後次第に代金の支払状況が悪くなり、昭和三二年四月二六日現在で、売掛代金残が金五四万六、〇九二円にもなつたもので、同年五月一四日、控訴人宅で、右訴外会社の代表社員田辺順次ほか一名が控訴人および訴外山田正一と話合つた結果、右訴外会社に対し、控訴人が同人所有の本件不動産に、右売掛残債権と今後の取引から生ずることあるべき売掛債権を担保するため、債権極度額金五〇万円の根抵当権を設定することになり、これに基づいて、本件根抵当権設定登記がなされるに至つたものであるが、昭和三六年八月一一日訴外会社は、同日現在における訴外会社の控訴人らに対する前記被担保債権金五〇万円を、当時訴外会社が被控訴人に対して負担していた金五〇万円余りの借用金債務の支払に代えて被控訴人に譲渡するとともに、同年同月二一日付内容証明郵便で、その旨控訴人に通知し(この債権譲渡の通知があつたことは当事者間に争いがない。)、これに伴つて本件根抵当権移転の付記登記がなされるに至つたものであることを認めることができ、原、当審証人山田正一、同田辺順次(当審第一回)の各証言中右認定に抵触する部分ならびに当審証人青木三郎、原、当審における控訴本人の各供述はいずれもたやすく信用することはできないし、他に右認定を左右するに足る証拠もない。

(二)  控訴人は、本件根抵当権設定当時、訴外山田正一の訴外会社に対する買掛金債務は、控訴人主張の如き事由により、全額決済ずみで、被担保債権は不存在であつた旨主張するが、これを認めるに足る証拠はないし、右当時前認定の買掛金債務が存在していたことは、前記認定のとおりであるから、右主張は採用の限りではない。

(三)  ところで、控訴人は、金円借用、手形割引、根抵当権設定契約の如き継続的取引を目的とする契約上の地位は、相手方当事者の同意なくしては、これを第三者に譲渡することはできない旨主張し、前認定の如き継続的取引契約に伴う本件根抵当権設定契約上の地位は、単に根抵当権者と譲受人のみではなく、これに根抵当権設定者たる債務者らも加え、右三者間の合意によつて、はじめて、これを有効に移転し得るものと解すべきものであることは、右控訴人のいうとおりであるが、前掲の甲第五号証、乙第二号証、原、当審証人田辺順次(当審は第一ないし第三回)の証言および本件弁論の全趣旨を総合すれば、訴外合名会社田辺商店は前記認定のように、控訴人から本件根抵当権の設定およびその登記を受けた後、昭和三三年七月一五日解散して清算手続に入り、同日以後は全然取引がなく、その後約三年を経過した昭和三六年八月一一日付をもつて、前記認定のとおり、右訴外会社の控訴人らに対する同日現在の残存債権金五〇万円を被控訴人に譲渡し、同年同月二一日付内容証明郵便をもつてその旨控訴人に通知をなした事実が認められ、右事実によれば、本件根抵当権の被担保債権は、控訴人らと訴外会社の取引関係が終了した前記昭和三二年七月一五日当時既に確定事由が発生するに至つたものと認むべく、したがつて、本件根抵当権は、右債権譲渡の通知と相まつて、少くとも昭和三六年八月二一日限り、右確定債権を被担保債権とする普通の抵当権になつたものと解するのを相当し、普通の抵当権が被担保債権の譲渡に随伴して移転することは当然であつて、右移転に対する債務者の承諾の有無は何らその効力に消長をきたすものでもなく、またその移転登記が根抵当権移転の形式でなされたとしても、普通の抵当権移転登記の要件に欠くるところはないものと解するのが相当である。

(四)  そして、以上の認定事実関係と説示によれば、結局本件根抵当権設定登記とその移転付記登記は、いずれもこれを有効なものと認めるのを相当とし、他にこれを無効視するに足る事実およびその証拠は見出し難い。

三、そこで次に、控訴人主張の時効の抗弁について検討するに、控訴人は、本件被担保債権は、履行期後の昭和三三年一月一日から二年の短期時効によつて消滅している旨主張し、本件被担保債権は、さきに認定のとおり、卸売商人たる訴外合名会社田辺商店の売却代金債権であり、成立に争いのない甲第一二号証、当審証人田辺順次(第三回)の証言によれば、その履行期は、最終的に、昭和三二年七月一〇日と定められたものと認めるのを相当とするから、右債権は、本来控訴人主張の如く、民法第一七三条所定の短時時効債権として、右履行期から二年の経過によつて消滅時効が完成するものというべきところ、前掲の乙第二号証ならびに当審証人田辺順次(第三回)の証言および本件弁論の全趣旨によれば、右債権の債務者たる控訴人および訴外山田正一らは、右消滅時効完成後の昭和三六年五月頃までの間に、何回にもわたつて、少額づつ一部弁済し、また昭和三七年初め頃にも、被控訴人から本件被担保債権の請求を依頼された訴外会社の清算人田辺順次に対し、その支払猶予を求めたことが認められ、右事実によれば、控訴人は、消滅時効完成後の昭和三六年五月頃および同三七年初め頃に、当該債務の承認をなしたものというべきであるから、仮に当時控訴人が時効完成の事実を知らなかつたとしても、同人は、もはやその時効を援用することは許されないものと解すべきであり(最高裁判所昭和四一年四月二〇日判決、民集第二〇巻第四号七〇二頁参照)、そして、控訴人の右債務承認後二年以内の昭和三七年四月三〇日に本訴が提起され、被控訴人が、これに応訴し、同年六月七日の原審第一回口頭弁論期日において、本件被担保債権の存在を主張していることは、本件記録上明らかであるところ、被控訴人の右行為は、裁判上の請求に準ずべきものとして、本件被担保債権につき消滅時効中断の効力を生ずるものと解する(大審院昭和一四年三月二二日判決、民集第一八巻第四号二三八頁参照)のを相当とするから、結局控訴人の右時効の抗弁もまた、これを容れるに由なきものといわなければならない。

四、果して以上説示の次第であつてみれば、本件根抵当権設定登記とその移転付記登記の無効を理由に、右各登記の抹消登記手続を求める控訴人の本訴請求は、いずれも失当たるを免れず、これを棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条によつて、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙

目録

(不動産の表地)

福井県坂井郡丸岡町本町一丁目三〇番地

一、宅地 三二坪三合八勺(一〇七・〇四平方メートル)

同所 三〇番地

家屋番号 新町二番

一、木造瓦葺二階建店舗 一棟

建坪 一二坪七合五勺(四二・一四平方メートル)

二階 一二坪(三九・六六平方メートル)

附属建物

木造杉皮葺平屋建居宅 一棟

建坪 六坪(一九・八三平方メートル)

(根抵当権設定登記の表示)

福井地方法務局丸岡主張所昭和三二年六月一〇日受付第一五三一号をもつてなされた原因昭和三二年五月一四日金円借用手形割引契約に基き同日根抵当権設定契約、根抵当権者金沢市博労町三四番地合名会社田辺商店、債権極度額金五〇万円、特約手形金支払を遅延したる場合その期日の翌日より弁済当日迄金百円に付一日金四銭の割合による損害金を支払う約の根抵当権設定登記

(根抵当権移転登記の表示)

右主張所昭和三六年八月一五日受付第二六七七号をもつてなされた原因同月一一日手形割引契約承継、取得者石川県石川郡野々市本町ヲ二〇番地中野芳明とする根抵当権移転登記。

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